景色と色彩の文章術|客観と主観の使い分け

景色と色彩の文章術|客観と主観の使い分け

智恵子は東京に空が無いという
ほんとの空が見たいという


私は驚いて空を見る

以下、略

(高村光太郎著「あどけない話」より)

あなたは、空の色を表すときに、なんと表現しますか?

遮るものがない頭上に広がる空、窓の外に小さく輝く空、灰色のビルに囲まれた窮屈な空、一日の終わりに見下ろしてくる空、旅先の他人顔の空…あなたの本当の空はどんな色をしていますか?

さて今日は、景色と色の表現のテクニックについて学んでいきましょう。

この表現を身に着けることで、身近な世界に言葉通り彩りが出ること間違いなしです。もちろん旅先の情景の表現にもぴったりです。

はるまき

はぁ?空の色なんて「青」やろ!

達人ちゃん

青は青でも、様々な青があるでしょう!
とりあえず読んでみて!

景色と色の表現のテクニック

1.客観的な表現で説明する

これはあらゆる表現、そして議論の基本なので何度説明しても足りないくらいです。
先ほど例文で出したものでいくつか見ていきましょう。

「客観的」と「主観的」の例

遮るものがない 頭上に広がる 空
灰色の ビルに囲まれた 窮屈な 空
旅先の 他人顔の 空

事実である「客観的」な言葉と、その人が感じている気持ちや見方である「主観的」な言葉に表現は分かれます。

客観的事実は誰であっても自分でなくても同じように見えるような状況。主観的な気持ちはその人独自のもので共感できる人もいればそうでない人もいるし、読み手の状況次第です。

下手な文章の特徴として主観的な表現が多く羅列されていることが挙げられます。

その人の感性が深く出る部分なので表現力に差が出やすいところで、基本的には主観はイメージしづらいものです。

身近に使う主観表現として「きれい」という言葉があります。 その人にとってきれいかもしれないが、ほかの人にとってはそうでないかもしれないし、「きれいな空」や「きれいな絵」。いったいどんなものがまったく分かりません。

「きれい」の使用例

透き通った 雲一つない きれいな 空」
中世ヨーロッパの貴族の 豪華な部屋を描いた きれいな絵」

このように客観で組み立てた後に、その人がその場にいるからこそ言える主観や気持ちを入れていくと文章の表情が豊かになっていきます。

とはいえ、主観的な表現は、自身の気持ちを表現したいときに使うのが基本ですが、その場の景色や色などを伝えるときには、まずは「客観」を軸に組み立てるのがポイントです。意識しておきましょう。

2.その場にいるからこそ言えることでぐっと臨場感を上げる

説明してきたように、まずは「客観で組み立て」その後に「その人がその場にいるからこそ言える主観」を入れるとぐっと良い文章になります。

TRYしよう

あまりに何もない景色なので難しいですね。
その場にいるからこそ、とはどういったものか。

それは肌身で感じる空気や音を思い浮かべると良いでしょう。

どこまでも続く草原の先に 透き通るような青い空が続いている。

淡々と客観的に説明するならこんな感じでしょう。
ここにその場にいるからこそ言えるエッセンス・主観を少し加えて入れてみます。

さわやかな 初夏の風が 草の葉を揺らし、 心地の良い音がする

ここまで言えば、読んだ人もその場所に立って風や音を感じているような気持ちに少しなります。

ここに個性が出ます。主観的な表現というのは無限の可能性がありますが、そこを伸ばすにはまず様々な「技」を覚えていくのが良いです。表現法はもちろん、純粋な単語の使い方です。

3.色を知る

さて、表現の骨格を学んできましたが、景色にとって大事な表現の要素。「色」についてみていきましょう。これもひとつのテクニックです。

我々の身の回りには本当に多くの色があります。
空を例にしましたが、例えば、青は青でも、様々な青があります。

水色、紺碧、群青色、瑠璃色、藍色…

日本人には豊かな自然に育まれた多くの和名の色(伝統色)があります。
こうした単語や表現を習得することで、ここまで学んできた型がさらに生きます。

いやいや、そんなの覚えられないよと思われるでしょう。
もちろんです。私もいちいちたくさん覚えていません。

だからこそ、表現には様々な形、色ひとつとっても繊細な言葉がたくさんあることを知っておくことが大事です。自分が伝えたい色と出会ったときに調べて使うことが出来るからです。

ちなみに人が見分けられる色の種類は約200~750万色あるそうです。さすがにこれは理論値で多すぎますが

日本の伝統色の名前とカラーコードを紹介している「和色大辞典」(https://www.colordic.org/w)では465色が載っています。非常に参考になるサイト様です。

こうした色の名前が分からない場合は、「錆びた鉄のような色」「日が暮れた直後の空の色」などといった表現でカバーするとなおさらしゃれた文章になります。

ただ和名の色は、「駱駝(らくだ)色」や「茄子紺」「鶯色」など動物や野菜、お茶から名前を取っていることも多く、今言った表現が原点となっています。

名前を見るだけも面白いので、眺めてみることをお勧めします。
身の回りの物をつぶさに見ていた先人たちの、繊細さを感じます。

是非、ここぞという時に使ってみましょう。

4.「あどけない話」を読む(テクニックのおさらい)

冒頭に記した詩の続きを読んでみましょう。参考になります。

桜若葉の間に在るのは、
切つても切れないむかしなじみのきれいな空だ。

どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。

智恵子は遠くを見ながら言ふ。

阿多多羅山(あたたらやま)の山の上
毎日出てゐる青い空

智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

(高村光太郎著「あどけない話」より)

分かりやすいように学んだ客観と主観をざっと色分けしてみました。

この詩のすばらしさを解説する文章はたくさんあるのであくまで表現の一部の例示ですが、客観的な情景と人物の内情を描いた名文です。

桜若葉という一言から季節が分かります。
花が散って葉桜になった初夏の季語です。

その隙間からというので、桜の木の下から空を仰ぐ様子が想像できます。うすもも色の朝のしめりという言葉もぼんやりとしっとりとした朝が思い浮かびます。

まさに客観的な表現と、その場にいるから感じる肌感覚、そして絶妙な色表現が使われています。

かっこいい装飾を並べなくてもこうしたバランスとテクニックで文章表現というのは物凄く可能性があります。

ちなみに「あどけない」の意味が分かりますか?

分からない言葉を調べることは、自分の「技」を増やすことに繋がります。

無邪気でかわいい、という意味です。
「智恵子」とは著者の詩人・高村光太郎の妻。智恵子抄は結婚前から死後の30年にわたってつづられたもので映画やドラマにもされています。

繊細で穏やかな日常と、望郷への思い。言葉通りあどけないと思う作者と妻の何気ないやり取りの美しさ…私は「あどけない話」が特に好きです。

智恵子抄は前文青空文庫で読むことが出来ます。
是非あなたなりに自分に取り込める表現方法を見つけてみてください。

青空文庫 智恵子抄
https://www.aozora.gr.jp/cards/001168/files/46669_25695.html